農協共済 中伊豆リハビリテーションセンター
理学療法士 小林 庸亮
私が支援活動に参加させていただいた3 月中旬は、発災直後を応急修復期として、復旧期、復興期の順に移行していく内の、復興期のタイミングにあたる時であった。復興期とは、発災前の状況に戻せるよう、地域に根付いたリハビリテーションへの以降支援を行う時期となり、JRAT の支援活動も徐々に撤退していく方向で調整が進んでいる時期であった。七尾市や志賀町は要支援者の減少と避難所の統合にともない、JRAT の撤退に際して地域での支援活動に大きな問題はないとの判断であった。
しかし、能登半島全体でみると、避難者の数は4 月下旬の時点でも未だ4000 人を超えており、特に奥能登地方の輪島市、珠洲市、能登町では未だほとんどの地域で断水と、幹線道路以外の道路の復旧が進んでおらず、自主避難を含めると多くの避難所が残っているとのことであった。その要因としては、倒壊した家屋の撤去作業の遅延、それに伴う仮設住宅再建の遅れ、復旧支援者の滞在拠点の少なさなどが挙げられており、復旧や復興の遅れによる離職や人口流出も進んでいた。
JRAT の支援活動は、リハトリアージや体調確認などの個別支援と、レクリエーションや体操指導などの集団支援、居住スペースの調整などの環境整備が主であり、医師の処方の下で、提供している個別リハは実施できないこととなっている。毎夕行われている定例報告会の中では、個別リハビリの対応ができないことについて意見が交わされる機会が度々みられた。JRAT の活動本部となる石川県リハビリテーションセンターから奥能登地方までは、車で片道約3 時間程度の時間を要すが、輪島市、珠洲市への支援回数は、JRAT 総派遣チーム数970 件中、輪島市で180 件、珠洲市では200 件を超えており、これまでに多くの支援活動が行われていた。しかし、支援回数の多さに相反して、現地で働くセラピストからは、JRAT に対し個別リハ実施の要望が多く挙げられているということを聞き、ニーズはあるものの現状の制度や、災害リハビリテーションに対する支援者と受援者とで考え方の違いからくる制約があることを知った。
私見的な想いとしては、医師が同行している隊であるならば、その指示の下で個別リハを実施することには問題はないと考えていた。診療報酬の発生有無も関係はないため、個別リハを提供することには何ら問題はないと思われた。しかし、実際に個別リハを提供するとなった場合、対象者の既往歴などの基礎情報や、保険区分についてなど、その場で把握するには限界があることや、診療報酬上の制約、個別リハを提供する側の技量(ハンドリング技術など)によるアプローチの違いなど、同一のセラピストが⾧期間を継続介入できるわけではないため、中途半端な介入は却って利用者に対して混乱を招いてしまうという懸念があることから、慎重にならざるを得ないことを学んだ。また⾧期的にみれば、災害リハ支援部隊が撤退した後にも、同様のリハ支援が地域で継続されなければ、それは支援部隊の自己満足
の支援で終わってしまうことも考えられる。
JRAT は、医療・医学の視点から関連専門職が組織的な支援を展開し、災害時の生活不活発病予防や早期の自立再建に向けて活動を行っていくことが主であり、支援対象は被災者であるが、地域で活動を継続している現地スタッフもまた被災者であり、支援の対象となり得る。奥能登地方は高齢化率が50%を超える地域もあり、⾧期化する避難生活において、支援の必要性がさらに増し、⾧期にわたる持続的支援が不可欠となることが予想される。発災後の離職により元々の人手が不足しているところに、避難生活が⾧期化していくことで、現地スタッフが疲弊し、さらなる離職も進んでいくことが考えられる。
前述したように、現状の制度では、行える支援活動に制約が多いことを理解した上で、あくまでも個人的な意見ではあるが、このような有事に限っては現地で働いているスタッフも被災者であることを改めて認識し、現地スタッフが生活基盤を再構築する間の補助的な役割として支援を行うことも一考する必要性を強く感じた。災害リハビリテーション支援は、継続性を重視するため、単発的な支援は避けるべきとされているが、同一の専門職同士による支援であれば、現地スタッフが休暇をとる期間、例えば派遣されたJRAT スタッフが、病院などの現地で従事する担当セラピストの代行者として、十分な申し送りを受け、自らの方針、価値観などを前面に出さないよう努めながら基本的理学療法を行うことは可能ではないかと考える。個人のスキルや診療報酬上の問題など、取り組むべき課題は多くあることは想像に難くないが、要配慮者をはじめとした被災地全体が早期に日常を取り戻すためには、現地で従事するスタッフの活躍が必須である。専門職同士の具体的な活動の在り方についても、今後も検討を重ねていく必要があると考える。
支援活動を通しての率直な感想としては、復興期の時期にあたる支援であったこともあり、理学療法士として専門的な活動を担える部分はあまり多くないように感じたことである。支援活動にあたって現場で求められることは、他の支援団体や避難所の管理者など、同じ現場にいる方々との情報共有を行うことが最初であり、そのためのコミュニケーションや、多様な意見や情報をまとめて行動に移す統率力や行動力など、混乱した場面でいかに冷静に、安全に配慮しながら支援者として行うべき最優先を選んで適切に行動ができるかどうかが大切であると感じた。幸いにして私が支援活動に参加した際には、本協議会の会⾧である、和泉謙二先生にご同行いただいていたこともあり、活動にあたってのオリエンテーション、毎朝、毎夕行う定例会議、行政をはじめとした多職種との情報共有、活動中の定期連絡や報告書の作製など、先生のご指導の下で多くを学ばせていただいた。この場をお借りして改めて感謝を申し上げたい。
今回の支援活動を通じて学んだことや、考えさせられることは多くあった。これらの経験を活かし、今後起こりうる有事に備え、専門職として更なる研鑚を積みながら、支援者としての考えや受援者としての考えなど、多角的な視点を持って災害リハビリテーションに対する知見を深めていきたい。最後に、未だ十分な復旧、復興が進んでいない中でも、安心した日常を取り戻そうと懸命に過ごされている被災地の方々に対し、心よりお見舞いを申し上げ、被災地の一日も早い復旧、復興をお祈りし、結びの言葉とさせていただく。